住民の思いと行政の思いが、合致しない地域事業が、ここでも見られる。地元要望で温泉ボーリングに成功し、住民出資で経営会社を立ち上げ、経営難を打開すべく昨年6月から新経営体制で温泉施設『竜ヶ窪温泉・竜神の館』を経営する3セク形態の株式会社竜ヶ窪温泉は、先月30日、臨時取締役会を開き、今月20日で営業休業し、今月末に予定の臨時株主総会で「会社解散」議案の提出方針を決め、4日には温泉施設に告知を張り出すと共に、地元集落に会社解散と営業休止を知らせる文書を配布。臨時取締役会後、全従業員に20日付での解雇通知を出している。同社の中熊弘隆社長は「業績向上が見込めず、半分以上を持つ筆頭株主の津南町の支援もなく、このまま冬に向かうと大きな欠損を生じる。ここで区切りをつけたい」と、会社解散の方針を話している。一方、津南町の桑原悠町長は「突然の方針に驚いている。町も財政事情が厳しいなかだが、できるだけの努力はしたい」と何らかの対応を検討するとしている。
温泉施設を経営する株式会社竜ヶ窪温泉は今期で24期を迎えている。昨年24期決算は265万円余の赤字。累積欠損6133万円余になっている。新経営陣は昨年6月に地元住民代表6人が取締役に就き住民主導の経営体制に一新。住民アンケートや会員確保の全戸回り、さらに各所イベントを継続開催するなど、業績向上に努めた。今年9月には、町議会に「業務委託契約にある委託費の支払い」などを趣旨に議会請願を提出。その後、町との協議で町側から「年度内に新たな業務委託契約を交わす」方針示されたが、10月の台風19号被害が広範囲にわたり交通アクセスが寸断され、「冬場以下の落ち込み」となり、売上が激減。例年の10月売上の4割減で、「このまま冬季に入ると昨年の3倍以上の欠損が出る」(同社役員)となり、急きょ、先月30日に臨時取締役会を開き、善後策を協議し、結局、全会一致で今月20日での営業打ち切り、さらに会社解散の方針を決めた。これにより、今月20日前後に予定の臨時株主総会で会社解散の議案を提出することになった。
株式会社竜ヶ窪温泉は、資本6200万円、株主個人338人、団体1で、この団体が津南町(出資金3300万円、出資比率53・23%)。このため株主総会は津南町が出席するだけで総会が成立する。施設は町所有で経営の同社は業務委託契約を町と結んでいる。
昨年決算は売上4462万円余(温泉利用・売店・直売、売上総利益3099万円)。一方、販売費用・一般管理費は3348万円。従業員は正社3人、臨時パート5人余。今年当初に金融機関借入を行い、経営を継続し、8月が黒字以外は厳しい経営が続き、10月の極端な落込みが「致命傷」になったとする。
中熊社長は「当初から訴えている筆頭株主で施設所有の町の経営責任への関わりが、我々が求めることと全く違う対応をしている。(議会請願で)やっと業務委託の見直しが出てきた。我々は民間会社だが、この施設は町所有でもあり、経営責任は共にあるはず。それが全く感じられない。今回の結論は苦渋の決断だ」と無念さをにじませる。
一方、津南町は先月の臨時取締役会の方針通知を受け、対応策の検討に入っている。9日で任期満了の町議会産業建設常任委員会メンバーや議長が動き、町の対応促している。取材に対し桑原悠町長は「芦ヶ崎・上段地域の皆さんの熱意によりできた会社であり、会社や地域の皆さんがあれほど一生懸命だったのに(突然の方針に)驚いている。町も財政事情が厳しいなかだが、できる限りの努力はしたい」と、今後会社側と話し合いの場を持ち、臨時株主総会までに何らかの方針を示す方針。それを受け会社側がどう対応するか、今後の推移が注目される。
今月20日以降に予定の臨時株主総会で提出予定の会社解散議案は、出席者(委任状含む)3分の2の議決をもって成立する。さらに臨時総会は株主の過半数(委任状含む)をもって成立。現取締役会は、仮に会社解散議案が否決された場合、取締役全員が辞表を提出する意向で、その場合、筆頭株主はじめ株主による会社運営となるなど、さらなる混乱が予想される。今春、同社が実施した住民アンケートでは竜ヶ窪温泉施設が「必要88%」(回答595人)と圧倒的な支持が出ており、今回の会社側の「苦渋の決断」を住民・株主がどう判断し、筆頭株主であり施設所有者の津南町がどう対応するか、時間が迫るなか、両者の話し合いが望まれる。
写真・11月末に予定の臨時株主総会に会社解散を提案する竜ヶ窪温泉