「今度は自分たちでステージに」…と、劇団公演を機に22年前に旗揚げした『スーパー素人劇団・かわにし夢きゃらばん』。スーパーの名がつく通り、脚本から衣装、音響、大小道具などすべて住民が手がけ、それもわずか1ヵ月の取り組みでステージを創りあげる。20代から70代まで、毎回新人が入り、ベテランとの相乗効果で味がある劇団になっている。22回公演は今月10日午後6時半から千年の森ホール。作品は人気歌劇『三文オペラ』をベースに、初回から脚本を手がける渡辺正範さんが地元川西のローカル色をセリフや演出に折り込む創作演劇「One coin(ワンコイン)」。メンバーは「理屈抜きに楽しめる夢と感動のステージです」と連夜、角万寺スキー場管理棟で夜遅くまでけいこに励む。「この1ヵ月、皆が家族同然なんです」、その集大成まで1週間だ。
夜8時過ぎ。真っ暗な農道を通ってメンバーが集まる。毎年、ここ角万寺スキー場管理棟が練習拠点。30畳ほどの大広間には作りかけの舞台衣装、小道具、本番までのスケジュール表など劇団の練習場そのまま。「公共施設は夜10時までが多く、迷惑はかけられない」と遊休施設を活用。早く来たメンバーは台本に目を通し、舞台で使う小道具作りに。夕食前のメンバーはカップめんを食べる。突然、セリフが始まり、練習がスタート。
旧川西町時代の1995年結成の「かわにし夢きゃらばん」。翌年、かわにし自慢祭で初の自主製作演劇を上演し大好評。以来毎年、地域の伝説や古典名作をベースにローカル色を織りこみ、随所に笑いや感動場面を組み入れるオリジナル作品を上演。毎回新人が入り、脚本から役者、道具、衣装、美術、照明などすべて手作りで取り組む。今回も出演17人、当日スタッフなど28人が協力。一方で演出家・伊勢谷宣仁氏、振付は荒木薫氏の指導を仰ぎ、素人集団ながらプロ指導を受けるため、メリハリが利いたステージになっている。
今回作品は戯作家・ブレヒトの人気歌劇「三文オペラ」をベースに、明治から大正に入った時代、経済が動き、金と欲と恋情が噴き出した時代設定。セリフに川西方言や実際の地名、農協、郵便局、商店名、さらに今の世情の出来事も折り込み、シリアスの中にも独特のコミカルさが入り、随所に笑いと感動が散りばめられ、劇団アピールの通り「理屈抜きに楽しめる」2時間の大作だ。
裏の世界を支配する夫婦。その一人娘が惚れたのが大盗賊の頭。その頭の恋人と元妻の登場で、金と欲、恋情が絡み合う。一方、盗賊を捕まえる警視総監とその頭は親友…。夫婦の掛け合い、女同士の確執、権力と盗賊の絡み合い…、あっと驚く展開で、なんと盗賊は…。随所に方言と実際の場所が登場し、迫真に迫る演技が、いまここで起きているように感じる演出は、22年の実績から。
主役の盗賊役、沢口幹夫さん(47)は運送運転手。けいこを重ねるにつれ髪型、雰囲気が大正期の裏の人間らしくなった。「8年目です。演劇は全くの素人でしたが、お客さんの反応が魅力ですね。この1ヵ月間がメンバーが家族です」。ダブルヒロインの一人娘役、20代の会社員、田村香菜絵さんは高校1年から演劇に取り組む。「この幅広い年代の集まりが私は魅力です。相談相手にもなってくれ、家族同然です」。頭の恋人、元妻の二役をこなす水野美咲さんは公務員。「皆さんも同じと思いますが、この1ヵ月、家族です」。
6年前、けいこ場の灯りを見て、いつしか自分もメンバーに入っていた会社員の高橋智恵子さん。「家が近くで、この時期、毎夜練習場の灯りを見て、いいなぁーと思っていて、けいこを見に行ってら、そのままメンバーに、でした。楽しいですね」。裏の世界を支配する夫のやり手の妻役で、セリフと振る舞いの存在感が増している。この日のけいこが終わったのは、夜11時を回っていた。
作品タイトルの「One coin(ワンコイン)」。劇中後半で、このキーワードが分かる。かわにし夢きゃらばん・関口昌生代表(45)は話す。「1年12ヵ月のこの1ヵ月、ここに集中する時間を家族のように共有できる、その楽しさでしょうか22年も続くのは。この1ヵ月は非日常、そこに集中する楽しさが、舞台で表現する、お客さんも楽しんでくれる、これです」。
「One coin(ワンコイン)」は今月10日午後6時半開演、千年の森ホール。大人千円(当日1200円)、小中学生800円(同千円)。チケットは千年の森ホールや各公民館などで扱っている。
写真・練習に取り組む劇団メンバー(10月31日午後10時半過ぎ、川西で)