まだ、サドルを漕ぐ足に、ハンドルを握る感触が手に、あの感触が残っている。95日間、約7600`のカナダ自転車の旅。キューバ1400`を含むと110日間9000`の旅を終え、帰国したのは1月末。「やったなぁ」。実感がジワリと湧いている津南町の柳沢徹さん(24)。
2年前の7月。一念発起。「自分探し、自分を試してみたい」。ワーキングホリデーでカナダに渡り、語学学校に通いながら地
元の造園屋で働く。半年後、東部のマニトバ州ウィニペグに移る。畜産農家で住み込みで働くなかで、自転車でカナダ横断する人、リヤカーで大陸横断する人を知る。
「まさに自分に挑戦です。よしっと、即決でした」。40年前の変則付の4中古自転車を100j(約8千5百円)で求め、テント、ヘルメット、バッグなども準備した。
カナダ最東端のニューファンドランド島を先ずめざした。約6600`。カナダの大自然を走った。漆黒の夜空に満天の星、ミルキーウェイ(天の川)がくっきり。真っ青な空。そこは野生動物の世界でもある。テント泊では間近にブラックベアが現れた。「なぜか身の危険は感じませんでした」。
アクシデントにも遭遇。テント泊で野営した場所にあった毒草に触れ、皮膚炎に。かぶれが進行し両足に水ぶくれが。休憩に入ったパーキングで自転車仲間から「これは重傷だ」と救急手配を受け病院へ。3日間の点滴。救急処置用品を受け旅を続行。完治まで2週間ほどかかった。
ルート途中、同じような自転車の旅人に多数あった。多くが年上。「夫婦や年配の人など、時間を楽しんでいるようでしたもちろん若い人もいます」。情報やメール交換。日記は英語と日本語でつけ、フェイスブックやブログを週一回ほど両語で発信。自転者仲間と情報交換した。
ニューファンドランドには9月末到着。数日前には雪にあった。6600`でテント泊53日。「アメリカを走ろうと思い国境まで1000`走りましたが、入国できませんでした」。米国は入国を厳しく規制し、宿泊先や友知人の紹介がないと入国させない。フラリ旅で何の準備もなく、入国を拒否された。
残りのビザ期間、以前から関心があったキューバに行く。同様に自転車の旅、約1400`走破。「牛や馬で農業する風景など、かつての日本を思い起こしました」。だがスペイン語圏で英語が通じない。「地図や絵で示し、なんとかコミュニケーションしました」。急速にアメリカ化する国情を垣間見た。「貧富の格差が広がっている印象です」。
「ありふれた日常の幸せ、実感しました。家がある、食べ物がある、水がある、友がいる、その日常の幸せです」。一日8時間余り自転車で走った。自分と向き合う時間。長い坂道は苦しい。自分を奮い立たせる。「狂ったように大声で叫びます」。ギリギリの自分への挑戦。
旅を共にした自転車は自宅居間に置いてある。無数のキズの一つひとつが、9000`走破の証し。その相棒のかたわらで、旅の記録をまとめている。 (恩田昌美)