市民による、市民のための、市民の演劇集団『かわにし夢きゃらばん』(関口昌夫代表)。「すでにプロ」といっては過言だろうか、いや人気はプロ以上だ。合併前の川西町時代に立ち上がった町民劇団・かわにし夢きゃらばん。新生・十日町市誕生後、その熱気は引き継がれ、毎年秋に定期公演。45日前から準備スタート。その伝統は変わらない。「この期間、一座は家族同然」。キャスト・スタッフ45人は公演日をめざし、思いが一つになる。来年は結成20周年。10年前の公演直前の中越地震で中止以外、毎年公演。今月8日、第18回公演『3DAYS』はホームグラウンドの川西・千年の森ホールで開催。会場いっぱいの350人の観衆は、熱演に拍手し、笑い、ホロリとした。全くの素人劇団が20年続いている。そこには、『かわにし夢きゃらばん』ならではのドラマがあった。
8日、千年の森ホールの受付。「どうぞ、どうぞ、ご来場ありがとうございます。まぁ、久しぶりだねぇ」。女性スタッフの笑顔が迎える。公演で1年ぶりに顔を合わせる人も多い。会場でも、久しぶりと声が飛ぶ。公演そのものが観衆の同窓会的になっている。
20年前の川西町時代。全国行脚する劇団『夢きゃらばん』公演を川西町の若者たちが誘致した。公演は大成功。「俺たちも何かやりたいなぁ」。公演開催の熱が、新たな熱を生み出した。翌年、その名も『かわにし夢きゃらばん』を立ち上げる。
初演は『越乃白雪姫』。町内で一番大きいスペース、川西中学体育館が会場。「舞台造り、照明器具の持ち上げ、大道具作りなど、今では考えられない重労働だった」。劇団立ち上げ、生みの親でもあり、初回から脚本を担当する渡辺正範さん(56)。「まず自分たちが楽しむのが大前提。娯楽ものに徹してします」。絵を描き、シナリオを書き、公演の裏方責任者でもある。
毎回、公演45日前から一斉スタート。「いつも本(脚本)が間に合わないんですよ」。メンバーは慣れたもので、次第にエンジンがかかる。今回の公演は『走れメロス』と『アラビアンナイト』をベースに、「人の弱さと強さ」を個性的な登場人物がコミカルに、時にはシリアスに演じ、方言も飛び出す痛快作品。
初演から欠かさず見ている藤巻マサエさん(67、橘)。「毎年この日を楽しみにしています。今回も感動しました。信じること、やり遂げること、何か勇気をもらいました。初めの頃に比べ、格段に上手になっています」と大きな拍手。娘の田中照子さん(41)は「自分もやりたくなりますね。仕事を持ちながら、ここまで仕上げていることに驚きです。皆さん、とても素晴らしかった。自分も、という思いを抱かせる最高の演技でした。ありがとうございました。時々出てくる方言が、また良いですね」。
その感動は近さにある。キャストすべてが市民のため、舞台で演じるのは隣のお姉さんであり、観客は近所の人たち。この近さが舞台と客席を一体化させる。だが、演技はプロ級だ。
それもそのはず、演出は『オペラ季節館』の伊勢谷宣仁さん、振付はプロの荒木薫さん。入団5年で今回、主役・美弥呼(みみこ)を演じた水野美咲さん(29)は「ちょっとしたアドバイスで演技に色や味が出ます」と話す。今回、7分間走り通し、セリフを言う場面があった。「あそこが今回の共感のシーンでした。あの走りを頑張れば、皆さんが最後まで応援してくれると思い、必死で走りました」。高校時代の陸上長距離・駅伝選手の実績が役立った。
メンバーは27歳から73歳と幅広いのも、夢きゃらばんの持ち味。年代相応の演技が味を出し、ファンがいるメンバーも。「毎回新人が入ります。とにかく、演じる方も見る方も楽しむ、これを第一にしています。45日間は家族同然。公演日は完全燃焼し、カーテンコールで拍手を受ける、毎年この繰り返しですが、この感動が止められない」。脚本の渡辺さんは当日は照明担当。照明調整室から毎年、このカーテンコールを見て、感動している。
なぜ20年も続くのか、「それは、演じる方も見る方も楽しいからではないですか。来年は結成20周年です。中越地震で1回休んでいますから第19回公演になりますが、何かやりたいですね」。またまた渡辺マジックが見られそうだ。主役を演じきった水野さん。「普段出せない自分が出せます。楽しいですよ。一緒に変身しませんか」。仕事を持ち、子育て中、農業や自営など、さまざまな市民が突っ走った45日間が終わり、20周年記念公演に向け動き出している。 (恩田昌美)