市町村立中学校の学力低下が深刻だ。学年が進むにつれ学力が県平均、全国平均を下回る傾向が続く。一方、地域唯一の中高一貫校・県立津南中等教育学校は、学年を経るごとに学力向上が見られる。何が違うのか、教育現場に聞いた。『学力だけが中学校生活ではない。社会で生きる人間性こそ大切』、当然の指摘だが、今回は毎年4月実施の『全国標準学力検査(NRT、小学2年〜中学3年)』と『全国学力・学習状況調査(中学3年対象)』を通じて検証する。今回は、「同じ地域に暮らし、進む中学校が違うだけで、将来に影響する学力差が出ていいのか」、この視点でリポートする。
先月30日。津南中等校は毎年実施のオープンスクールを開いた。十日町地域、南魚沼・魚沼、上越市、栄村などの小学校33校から子ども達、親など250人が来校した。配布資料で今春実施の『全国学力・学習状況調査(中学3年対象)』の同校の速報値を公表した。
基礎知識を問う国語Aは平均正答率89・7%(県79・5%、全国79・4%)、数学Aは88・4%(県67・9%、全国67・4%)。応用力を問う国語Bは68・4%(県50・3%、全国51・0%)、数学Bは80・1%(県59・8%、全国59・8%)と高い数値だ。
この学習状況調査は、各市町村教育委員会の判断で公表するが、十日町市と津南町は今月末の教育委員会で協議。栄村は村教委の協議で公表しないことを決めている。
同時期に実施の『全国標準学力検査(NRT、小学2年〜中学3年)』結果を十日町市は毎年、市議会総務文教常任委員会に市平均を報告。学習状況調査結果と同じ傾向という。津南町は公表しないが、調査結果の傾向は似ているとする。
傾向では、中学1年は全国・県平均を上回っているが2年、3年と進むに従い学力が低下し、3年では全国・県平均を下回る科目も出ている。中学入学時の学力が伸びるどころか、下降線をたどっているのが実情だ。
なぜ中学段階で、学年を経るにつれ学力低下するのか。一方で学力向上する中高一貫校。義務教育課程の学習内容に課題があるのか、教員指導体制が違うのか。地元教育委員会は、この現状をどう見ているのか。
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十日町市は3年前から学習支援の『放課後寺子屋塾』をスタート。現在、市内小学14校、中学4校で実施。今春から新たなに『英語寺子屋塾』を小学生・中学生対象に2会場で実施する。「自宅学習の習慣づけの一環」(蔵品教育長)と位置づける。今後全市での実施をめざすが講師確保が課題。さらに授業の学習支援員を確保したいが、「財源と人材が課題」が現状。学力低下は、「高校全入」の現実があり、「競争感が乏しく、目的意識が希薄になっている」と見る。
津南町は、今年度から保育園―小学校の一貫化をめざし、町教委に保育行政を移管。障がいを持つ子たちのサポートや保小連携を強める。学習支援員を全小学校に1人配置し学習サポートにあたる。中学校への配置はなく学習支援が手薄な現状。「人材確保と予算が課題」(桑原教育長)だ。学力低下は「詳しく分析した経緯はないが、学年を経るに従い学ぶ意欲が薄くなっている。向上心、夢をどう抱けるか、そこが重要だ」と話す。
一方で蔵品教育長、桑原教育長が口を揃えるのが『当地域は教員確保困難地域』という言葉。「原因の一つは地元出身の先生が少ないという現実。4年前から『魚沼枠』制度がスタートした。ぜひ教員にチャレンジしてほしい」(蔵品教育長)。校長経験者の桑原教育長は「子ども達は、目の前に立つ教員から大きな影響を受ける。当地は経験の浅い先生が多く、2年前から経験6年以下の先生をサポートする教育指導主事を置き各学校を回っている。先生をフォローし、それが子どもたちへのサポートにつながると信じている」と話す。
教員数では新潟県は40人学級を基準に県立学校「2・3人」、市町村立「2人」と差がある。だが県立の場合、学習支援員や学校支援員などの配置はない。学力問題で中学校現場からは「地元の高校の魅力が低下している。特に十日町高校。さらに勉強したいという進学先としての魅力に乏しい。国立理系や医学部コースなど、特色化が必要だ」との声もある。
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中学校課程で、学年と共に学力向上する津南中等校はどうなのか。
「学習サイクルを徹底することで、毎日の学習を自覚するようになる」、津南中等校の吉原満校長は話す。毎朝10分間の小テストに合格しないと放課後に再テスト。「分からないままにしておかない」ことを徹底する。中高一貫6年間を、1・2年、3・4年、5・6年の3ステージに分け、「節目に校外研修や企業・大学訪問、学習合宿など行い、学習の意義付けにより自分の方向付けが明確になっていく」。
今年の夏休みには、同校卒業の大学生14人を招き、関心がある先輩を自由に訪ねる講座を行った。「自分たちと同じ6年間を過ごした先輩の言葉は、大きな刺激になったはず」(吉原校長)。高校受験がないだけに学習意欲の持続が課題で、英語検定や漢字検定、数学検定、さらに海外研修などで節目を作っている。
この結果が、中学3年間の学力向上につながっている、と見られる。さらに、「中学生が同じ校内で、受験生の高校3年生の真剣な姿を常に見ていることは大きな刺激になる。選んで入学し、選ばれて入学してきた自覚を感じているはず」。『勉強をする』校内の雰囲気ができているという。
(恩田昌美)