105歳の祖母・ハヤ、95歳の祖父・清蔵。祖父母の肖像画を描いたのは36歳の時。28年前の作品だが、いまも、語りかけてくるものを感じる。画家・山田寿章(64)の原点の一つになる作品だ。
かつて、「秘境」の二文字を冠した秋山郷。三度目の冠雪を見せる苗場山と鳥甲山。その双頂の懐に包まれるように、山田が生れた屋敷集落はある。両親が営む「民俗史料館」には、山田の作品館も併設する。
絵の原点は、秋山小学校3年にさかのぼる。担任の古越教諭は、信州大で絵を専攻した若い先生。写生の時間、山田の絵を見た先生から、思わぬ言葉を聞いた。『油絵を描いてみなさい』。
「よく憶えていないが先生に言われるままに油絵を描き、それが4年間続いた。あの出会いが、今の自分の原点かな」。
抽象画を専攻した古越教諭。その影響を少なからず受けたであろうと感じる画風が、山田にはある。古越教諭との出会いが、最初の原点だ。
デザイナー志望で進学したが、絵より「手に職をつける」ため建築設計士をめざし資格取得後、独立。30代初めの頃。すっかり、絵から遠ざかっていた。「請負仕事ばかりで、毎日がマンネリ化していた。そんな時、ふと思ったんです。『絵が描きたいな』と」。
36歳の時。その作品が祖父母の肖像画。105歳の祖母、95歳の祖父を、本人を前に丹念に描いた作品は、その年に応募した公募展に入賞。話題作となりメディアに載った。
祖父母は、描き手を見ていないが、そのたたずまいは、営々と生を刻んできた時間を感じさせる。この肖像画が、絵の道を歩む二つ目の原点となった。
小学3年の絵との出会いから、すべて独学。傾倒したのは「シュールレアリスム」のサルバドール・ダリや劇的な画面構成のウジェーヌ・ドラクロアなど。ただ、その原点は秋山郷の風景。代表作「里山の1本桜」に、それが見られる。
早苗が植えられた棚田が眼前に広がり、その畦に立つ1本の山桜。淡いピンク色が水田に映る。背後の山並みは、山田独特のシュール感の秋山郷の原風景が広がる。
山田は現在、全国展開する「一枚の絵」の所属作家。年間通じて全国のデパートやホテル、ギャラリーで開く作品展に出品。新潟や長野県内で毎年開く。一方で地元の寺院の襖絵も描く。来月には善福寺(津南町)襖絵の一部が完成。岩彩で描く日本画は、出来上がると14枚の襖絵になる。
地元で久々となる個展を21日から津南町文化センターで開く。祖父母の肖像画、秋山郷の里山風景を独特の世界で描いた作品など30点を展示。ただ、まだ描いていない世界がある。
「自画像ですね。一度も描いたことはありません。いずれはと思っていますが、どんな絵になるか、自分でも分かりませんね」。
東京のアトリエと秋山郷の生家とを季節の渡り鳥のように行き来する。屋敷の民俗資料館内には高校時代からの作品が並ぶ。「これが私の世界です」。その一端を、今度の個展で感じることができる。 (恩田昌美)