
基礎学力の蓄積が求められる中学生段階の学力低下、特に市町村立中学の低下が顕著で、教育行政の大きな課題になっている。毎年4月実施の全国標準学力検査(NRT)の結果からも明らかで、小学6年までの全国水準を上回る学力を、中学生段階でさらにどう伸ばすかが教育現場、さらに地元教育委員会に突きつけられている課題だ。今春実施のNRT結果が先月26日、十日町市議会全員協議会に示された。小学段階では全国標準の「50」を上回っているが、中学2・3年では50以下となり、市教委によると魚沼エリア全域で見られる傾向という。津南町でも同様な傾向だ。一方、開校8年目の県立津南中等教育学校は、昨年から中学2学以上のNRTを実施せず、難易度が高いベネッセ模試を年2回実施し、全国状況と比較している。市町村立の中学校で何が起こっているのか、関係者に聞いた。
NRTは全国標準の学力検査で毎年4月実施。導入しない自治体もある。検査は前年度に学んだ内容から出題され、例えば中学1年4月実施の検査は、前年度小学6年で学んだ内容から出題される。教科は国語・社会・数学・理科で中学2年・3年で英語を検査する。
十日町市教育員会が市議会に示した資料では、小学2年から6年までは、すべて全国標準(偏差値50)を上回っている。だが中学1年(50・9)、中学2年(48・7)、中学3年(47・7)と学年が進むにつれ、全国標準を下回る。この傾向は津南町も同様で、小学6年まではほぼ全国標準を上回り、中学で下回り、3年生でさらに下がっている。
十日町市教委と津南町教委が、その要因の一つに同じ事項を上げている。それは『県立津南中等教育学校へ、成績の上位の子たちが進んでいる』という見方。つまり小学校段階で学力上位の児童が、地元中学ではなく中高一貫校・津南中等校に進んでいるため、NRT平均数値が下がっているという見方だ。
市教委によると、市内小学6年のうち毎年約40人余が、同様に津南町教委によると小学6年の3割程度が津南中等校に進んでいる現状があるという。
では、津南中等校の中学1年の数値はどうか。津南中等校1年のNRT結果は昨年(58・7)、今年(57・2)と、開校以来1年生の数値をほぼ同じ。だが同校はその後の2学年・3学年で学力を伸ばし、NRT検査を受けていた3年前の数値は「60」を上回る結果が出ている。
十日町市教委、津南町教委の指摘について、津南中等校・吉原満校長は、その分析にちょっと驚く。「津南中等は特別な学校ではありません。やるべきことをしっかりやる、これだけです」。言葉での表現はこうなるが勉学を支え、伸ばすシステムを創っているのも事実だ。
中高一貫・6年間教育の津南中等校には高校受験がない。同校は6年間を1・2年、3・4年、5・6年の3ステージに分ける。「ステージが変わることで、学習の質が変わることを意識させます。例えば3・4年ステージでは、目標への取り組みをより意識させるために、大学受験目前の6学年(高校3年)と一緒に合宿し、大学受験への意識付けを行います。各ステージに進むことで、生徒は自分をリセットしていきます」。
同校は昨年から2・3学年のNRT検査を止めた。理由は「難易度的に参考にならず、全国の中高一貫校レベルの中で考える必要がある」とベネッセ模試に切り替えた。「常に全国の中の自分の位置を意識させる」取り組みで、大学など進路への自覚を促している。
さらに市教委と町教委が中学で学力が下がる要因とするのが「教員数の差」。県立学校と市町村立学校では、教師の配置基準が違う。市町村立中学の40人学級の教員数は「2人」、県立学校は「2・3人」。現場の教師数の差が学習密度の差に通じていると指摘する。さらに「教師の多くが3年で交代し、力のある中堅教師の確保が難しい」などの要因もあげる。
両教委がさらに問題視するのが「生徒の目的意識を希薄さ」。市教委・蔵品泰治教育長は「高校受験が楽になっており、選ばなければ全入時代だ。高校受験への意欲の減退も要因しているのでは」。同様に津南町・桑原正教育長も「高校受験に向け、さらにその先の進路に向け、目的意識を持つのが難しい状況になっている」。
両教育長はさらに指摘するのが『地元高校の魅力の低下』。それは「高校のレベルを上げることが必要。全入では高校受験への緊張感が希薄になり、それが日頃の学習意欲にも影響しているのでは」と見る。
同様の指摘は以前からある。『十日町高校に医学部進学コース、あるいは理数系専科を作り、全体のレベルアップを図る必要がある』と地元経済界などから要望が上がった経過があるが、県要望など具体的な動きには至っていない。
津南中等校の吉原校長は話す。「赴任2校目など若い先生方が多く平均年齢は36歳。特別な教え方のテクニックがあるわけはなく、やるべきことを、しっかりやる、特に勉強だけはきちんとやるという習慣付けを行うことで、学校全体に学習することが当たり前の雰囲気ができる。そうした環境、システムを作ることが大切では」。学年に応じた自宅学習の課題、毎朝の10分間テスト、夏休みの学習合宿など、多くの中学で実施する取り組みを話す。
津南町や十日町市の小学校長を長年務め、今年5月から十日町市教委委員長に就いた庭野三省委員長は話す。「この地域の教育風土はとても良い。これを子どもたちの目的意識作り、目標作りに結び付けたい。その目的作りのためにも地元高校のレベルアップが必要。さらには多くの小中学校で3年で先生が交代する。この辺も課題だ。十日町市は小中一貫教育に取り組む。学校現場が安定していれば、学習に集中できる時間が増える。小中連携は大切」と話す。
一方、津南町教委は来年度から「保育園・小学校連携」に具体的に動き出す。「教師数の差は、制度改正が必要だが、地元教委として、自治体の財源との関係で教育環境に差が出るのは避けたい」と、町教委として町財源出動などを要請する考えだ。
(恩田昌美)
写真・関心が集まる県立津南中等校。オープンスクールには多くが参加する(2012年9月、同校で)