雪原を自由に疾走できるスノーモビルの国立公園などへの乗り入れが問題になっているなか、最近は農地や牧場、私有地にまで無断で入り、乗り回している実態があり、津南町では「広域的な取り組みと連携が必要」と問題視している。だが、どう取り組むかが課題。この問題は津南町議会6月定例化で取り上げられ、上村町長は「関係機関と連携し、乗り入れ規制を協議していきたい」と方針を示した。だが現状把握は手薄で「苦情や被害の報告は受けていない」と後手に回っており、関係者は何度も無断乗り入れを目撃し、警察を呼んだ事例もある。
冬のモータースポーツとして人気のスノーモビル。最近は規制が厳しく締め出される場所が多く、規制がない津南地域が「あそこなら大丈夫」と情報が流れているようだ。残雪が固まる3月から4月、津南町の標高が高い雪原で多数のスノーモビルが爆音を轟かせ、疾走する姿が多数目撃されている。「早急に規制が必要。動植物への影響は大きく、春山をトレッキングで楽しむ人が増えているなか、マイナスイメージだ」と規制の必要を求める声が上がっている。
新潟県鳥獣保護員の中山弘さん(60)は2年前の4月初め、上信越国立公園・苗場山系の通称「三ツ山(みつのやま)」山頂でスノーモビル5、6台の一行と出会った。この日は新潟・長野の医師会メンバーの要請を受け登山ガイドで同行。湯沢側から苗場山をめざした。「尾根に出ると突然、モーター音が響き、見ると三ツ山の山頂付近でスノーモビルが走り回っていた」。
県鳥獣保護員として入山許可の有無を問うと、「逆に、何が悪いと反抗してきた。ならばと強く話し、警察を呼んだ」。一行は、津南町大場地区の小松原湿原入口の林道まで車で来ていたため、地元警察にその場所まで来るように要請。大場で待ち受けた警察。だが、規制する法律がないのが実情。ただ『国立公園内への車両等の乗り入れは許可が必要』に抵触するため、厳しい注意を受けた。
町議である中山さんは、この問題を6月定例議会で取り上げた。
「小松原湿原から三ツ山、あるいは相吉の天上原、さらに妙放牧場まで彼らは自由に乗り回している。畑の上だろうが牧場だろうがお構いなしだ。春先、動物や鳥類が動き出す。さらに雪消えの上に芽を出した樹木の新芽を踏み荒らしている。エンジン油も落ち、相当の影響を受けているはず。規制がない津南の大地が、格好のスノーモビルの遊び場になっている」と実情を説明し、規制の必要性を訴えた。
これに対し上村町長は一定の規制方針を示すが、実情把握は手薄い状態だ。「小松原や妙法牧場でスノーモビルを乗り入れているのは町外グループと聞く。今のところ苦情や被害の報告は受けていないが、他では被害が出ていると聞く。北海道では規制地を設け罰則規定もあるが、本州地域では国立公園など自然環境保全地域以外では乗り入れ規制対象外だ。小松原は入山許可が必要で、入るスノーモビルは無許可乗り入れしているようだ。小松原は他の市町村も関係するため、関係部署や市町村と連携し、乗り入れ規制を協議していきたい」。苦情や被害の報告がないというが、現場の声は少しちがう。
全国名水百選・竜ヶ窪の水源地域でもある同地の山側エリアの一つ、天上原でもスノーモビルが目撃されている。さらに同地から県営妙法育成牧場まで起伏に富んだ丘陵が続くため、一体がスノーモビル利用者にとって、格好の場所になっている。
このため昨年、地元地域で乗入れ禁止の看板を妙法牧場入口に設置した。今期は妙放牧場への乗り入れは確認されていない。地元の上段地区振興協議会役員の涌井九八郎さん(63)は、「被害報告がないというが、実情はかなり迷惑している。スノーモビル関係者の中で『津南は大丈夫』と情報が流れているのではないか。自然環境を守る姿勢を示すためにも、独自の規制が必要ではないのか」と町条例などによる規制の必要性を強調する。
県鳥獣保護員の中山さんは「スノーモビルの2サイクルの燃焼カスが三ツ山に落ちていた。確実に高山植物に影響が出る。春先、雪の上に頭を出したハイマツなどの上を乗り回している。津南は自然が大切な資源であり、それを守るという自治体としても姿勢を明確にすべきだ」と話し、議会主導での条例化も視野に入れている。妙高高原では公園エリアの変更を国に要請し、規制を実現。他では自主規制の看板や啓発を行っているが、決め手を欠いているのが実情だ。 (恩田昌美)
写真・スノーモビルの乗入が問題になっている(資料写真、北海道・真狩村で)