「都心から2、3時間で、こんな場所、そうそうありませんよ」。日焼けした逞しい顔が、自信を見せる。ラフティング事業に取り組み5年。庚敏久(34)は、今シーズンの賑わいが、目に浮かぶ。
千曲川が信濃川に名を変える県境。「不思議ですよね、人間の都合で、県境を堺に川の名前が変わるんですから。実は、これも魅力なんです」。飯山市戸狩温泉の高台。蛇行する千曲川が一望できる場に、「四季の彩りの宿・かのえ」がある。目の前は緑一色の自然。「この何もないのが、魅力なんです」。首都圏の小中高生らが自然体験に訪れる。
日本リクレーショナルカヌー協会、日本ラフティング協会の公認リバーガイド資格者。5年前のUターン後、「パワードライブR117」を立ち上げ、千曲川や地域の湖沼でアウトドア活動プログラムを提供し、自然体験を受け入れている。
「川はボートがあれば、すぐにできます。ここに暮らす人でさえ、この川の魅力に気づいていない場合が多いですね」。その魅力の場所。栄村から津南町上郷までの約7`。「関東圏から2、3時間。川面から人工建造物がいっさい見えません。まさに『未知なるフィールド』です」。
震災前、このルートを何度もボートで下った。体験試乗した地元の人の言葉が、今も耳に残る。「50年生きてきて、こんな千曲川の風景は初めて見た」。両岸のそそり立つ断崖、時にはゆったり、時には急流で流れる川面を、ラフティングボートで下る。
「北海道や東北の奥地でもないと、これだけの景観、雰囲気、スリルは体験できないです。誰もが持つ冒険心、探検心を大いに刺激してくれます。これは、自然が栄村に与えてくれた財産ですね」。すでに今夏の予約や問合せが、ラフティング仲間や観光関係者などから続々と入っている。
群馬・みなかみ町のラフティング活動はよく知られる。年間10万人、10億円産業に育ち、季節雇用含め250人が働き、定住者人口の増加で子どもたちが増えている。みなかみラフティング事業者も注目する栄村ー津南間ルート。事業化のイメージは、すでに庚の頭に出来上がっている。あとは、地元の理解と協力という。
「すでにいくつかのラフティング事業者が入ってきています。みなかみもそうですが、地元組織の立上げが必要です。そうしないと、無秩序の利用となり、地域との関係性が薄くなってしまいます」。近く、『栄村ラフティングクラブ』を立ち上げる方針。
河川利用の約束事、川までの農道や農地の利用方法、駐車スペースなど利用の約束事を決める管理代表の同クラブ事務局の立ち上げを求める。
「川は誰が利用してもいいのです。ただ地元との関係がとても大切。それをまとめる地元組織が必要です。この最高の魅力ある地には、必ず多くの人たちが来ます。実際来ています。それだけに早急に地元受入れ体制作りが大切です」。地元スポーツ関係者やNPOと連携し、事業の法人化を視野に入れ、取り組んでいる。
今月3日、津南町のクアハウス津南から下船渡本村まで約6`、ラフティング体験を行い80人余が参加。庚もメンバーの千曲川信濃川親水協議会が運営した。「上流と下流の連携でさらにスケールアップできます。ちょっと大きく言えば、産業起こしです。幸い20d放流が決まり、この水量でも充分ラフティングが楽しめます。この魅力、まずは乗ってみることですね。一度乗ると、必ずはまっちゃいますよ」。今夏、モニターツアーを多く計画する。今月30日も、計画が入っている。
「川面から自分たちが暮らす地域を見ると、価値観が変わりますよ」
(敬称略)