『夢の実現』を掲げる中高一貫校、県立津南中等教育学校(本田雄二校長)の1期生から東京大、京都大への進学者が誕生した。国公立大前期日程の合格発表が行われ、15日までに同校で10人が合格。超難関の東大、京大のほか北海道大、千葉大などの合格者が出ている。今月末発表の後期日程を含めると20人弱の国公立合格が出る見込みだ。1期生で東大、京大の合格者が揃って出たのは、県立中等校7校では初めて。県教育委員会も大きな関心を寄せている。
「小学5年の時、テレビで見た生物の面白さから研究者になろうと考え、そのためには勉強が必要と、勉強に力を入れると聞いたこの学校を選びました」。津南中等校入学の思いを語る小林洋祐さん。今月10日、東京大(理1)合格を自宅に届いた郵便レタックスで知った。「受験では数学が少しできなかったので、受かっても、落ちても、(東大の)試験はこういうものかという感じでした。合格を見て、ほっとしたのが実感です」。
なぜ、東京大か。「2年目で進路振り分け制度があり、進める進路の幅が広いことに魅力を感じ、5学年で決めました」。めざす分野は『進化生物学』。生物の進化を通じて地球環境の変化などを研究する。特に関心を抱くのが『大量絶滅』。突然、生物が大量に絶滅することが歴史上に幾度もあり、そんな分野への研究心を抱いている。
「兄の付録なような感じです。この学校なら進む選択肢が増えるので」と同校入学の小林佳吾さん。2人は水沢小卒の双子の兄弟。京都大合格は9日正午、津南中等校の進路指導室PCで知った佳吾さん。「試験は余り良くなかったので、落ちると思っていましたから、番号を見つけ、驚いたという感じです」。
京大の「自由な校風」に魅かれた。だが「京大はチャレンジ校でした。化学が好きで、東北大薬学部や東京工大理学部など応用科学の分野へと思っていましたが、後期になり成績が伸び、それなら基礎研究に絞ろうと4学年の時、物理学専攻を決め、校風も自由そうな京大理学部に決めました」。物理学、つまり物質の本質に迫る研究者をめざす。
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1期生69人は16日、母校を卒業。『夢の実現』を創学理念に掲げる津南中等校。1期生の進路先に、県内外の教育関係者らの目が集まる。それは、多くの県立中高一貫校が市部にあるなか、津南中等だけが郡部の津南町にある。
開校当時、「あんな不便な所に誰が行く」と、市部の教育関係者などが話題にしていたが、2期生、3期生と関心が高まり広範囲から入学。昨年度は過去最多28校の小学校から入学。それだけに1期生の進学先は同校の「大きな試金石」になっていた。
「難関大学への合格者が出てくれたこと嬉しい。国公立への進学者数はいま一歩だが、この学校での6年間で、夢の実現への自信をつかんでくれたと思う」。在職3年目の本田雄二校長。今月初めから落ち着かない日々を送っていた。
主要教科の少人数授業、各種検定、大学訪問、毎日の課題。「学校としてやれることには限度がある。教員のサポート、保護者の支え、ありがたい地域の支援、生徒がこれに応えてくれる頑張りを見せてくれた結果」。土日も学校に来る生徒に対応する先生ら。まさに『受験は団体戦』で取り組んだ。
「夢の実現。6年間、生徒は自ら頭に染み込ませている。学校全体のムードも大切。1期生がそれを作ってくれた。『やればできる』、学校行事などあらゆる場面でこれを実践してくれた」。本田校長は学校生活で生徒の成長を実感し、進路決定の知らせを受け、それが確信に変わった。
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今期は全校433人。来月、7期生80人を迎える。生物学者をめざす小林洋祐さん。「入学時、まだ夢が具体化していない人もいるだろう。夢を早く決める必要はないが、夢ができた時に備える準備は必要。勉強への意思を持ち続けること。その動機は何でもいい。あいつには負けたくないとか。夢が具体的になった時、学力があれば、その夢は必ず実現する」。
初めて兄弟が離れることになる。「自分はこれまで他律的でしたから、自由な校風の京大で自律する自分を創りたい」と小林佳吾さん。「前期は宿題とテスト勉強は集中した。この前期にやりたいことは何でやった方がいい。後期は時間がなくなる。分からない部分は納得いくまで聞き、理解すること」。ふたりが口を揃えるのは、「この学校に来てよかった。自分の選択は正しかった、と思っています」。
1期生の進路先で15日までに決っている国公立は東大、京大、北海道大、新潟大、千葉大、秋田大、上越教育大など。私立合格では早稲田、慶応、中央、明治、津田塾、東京理科、麻布(獣医学部)、ICU国際基督教大など難関私大が見られ、4大進学率は8割余り。一方、看護学校や専門学校への専門職進学も見られ、就職者もいる。それぞれが『夢の実現』へ一歩を歩み出す。
写真・東大に進む小林洋祐さん(左)と弟の小林佳吾さん(13日、同校で)