全国名水百選の津南町「竜ヶ窪」から取水し、飲料水ペットボトル販売を大手商社系のコンビニ大手が計画し、地元津南町が積極姿勢を見せているなか、水利用している地元集落の同意の行方に関心が集まっている。町は今週初め、地元の一つ、谷内集落(56戸)に詳しい説明文書を配布し、理解を求めている。もう一つの地元、岡集落はすでに臨時総会で「同意できない」と決議しているため、この水問題の行方に関心が集まる。
これまでの地元説明や町配布資料から明らかになっていることは、同企業の年間取水量は6千d。竜ヶ窪の年間湧水量の2千分の1(町調べ)という。取水方法は、両地区が使う竜ヶ窪水道(加入約220戸)の井戸から直接取水し、「ナチュラル・ミネラルウォーター」として販売したい方針だ。
ペットボトル飲料水の水工場(千平方b〜千5百平方b)を、竜ヶ窪の森林帯から離れた現在の上段ライスセンター近くに建設予定(地元雇用5、6人の予定)。生産は最大で年間約千2百万本(5百_gボトル)を予定している。
地元に支払う取水費用は1d3百円を予定し、年間6千dで180万円となる。さらに「竜ヶ窪の環境保護費」としてペットボトル1本当り0・1円、年間千2百万本で120万円の環境保護費を企業は支払うとしている。
事業導入に積極的な町は、「竜ヶ窪の水が全国販売されることで津南町、竜ヶ窪の知名度が上がり、米や野菜など特産品販売への効果が期待でき、コンビニ業界ではおにぎりや野菜サラダなど農産物が売れ筋で、津南町の米や野菜の契約取引が期待できる」など、同企業との連携に期待感を寄せている。
写真・竜ヶ窪の水は谷内、岡の両地区が均等に利水している(流出口で、昨年11月)
【地元の意見】
藤木寿一氏(津南町立石)
竜ヶ窪の水の大切さは地元民の皆が思っている。この水なくして、ここでの生活はありえないほど、大切さは住民共通の思いだ。
今回の竜ヶ窪の取水計画は、地域のこれからのことも一緒に考える必要がある。私も竜ヶ窪水道の管理人をやったことがあるが、企業が求める年間6千dの量は、影響が出る量ではないと思う。新たに井戸を掘るなら影響を考えなくてはならないが、いま集落が使う水道井戸からの取水であり、問題はないと考えている。
この地域も高齢化が進み、農業の将来はますます大変で、先行きが見通せない。この水を求めている企業は全国的にも大きな影響力を持ち、竜ヶ窪ブランドを通じて津南を知ってもらうチャンスが生まれる可能性がある。
ここは縄文人が長年住み続けてきた地であり、当時から竜ヶ窪の水は出ていただろう。だから「神の水」、これは地元民の共通の思いだ。この水に直接影響する井戸掘削は当然、私も反対だ。
先人が守ってきた水という考えは、誰でもが思っている。その水が高齢化する地域の役に立つなら、先人たちも理解してくれるのではないか。例えば、地区費の各戸負担の軽減に活用でき、年金暮らし世帯などの負担軽減もできる。さらに、安全でうまい水を全国の人が飲むことで津南が知られ、地域の活性化につながるはずだ。
この竜ヶ窪の水で作る米や野菜にも、さらに価値がつくのではないか。ただ、上村町長は農業への波及効果を言うが、津南町で何ができ、企業が何をしてくれるのか、しっかり確認してほしい。
「竜ヶ窪の水は命の水ー名水が永遠に名水であるように祈る」
井ノ上好一氏(津南町谷内)
谷内の誕生前から湧き出る竜ヶ窪の水。決して汚してはならないと子々孫々に言い聞かせ、守り抜いてきた。この命の水が、金で売られようとしていると知り、憎まれ口をペンに替え訴えたい。
竜ヶ窪は、谷内、岡集落が大切に守ってきた神域であり、命の水だ。周囲の草木までも大切にし、被害の出ないように守ってきた。
地域の保護活動を見て、芦ヶ崎小の子たちも自発的に清掃を行う。最近、竜ヶ窪周辺にゴミの投げ捨てが多いと聞き、心ない人の所業に腹立たしさを感じる。
モラルの低下に、保全活動がさらに必要と話していた矢先、町がこの命の水を「金で売ろう」としている事を知り驚いた。町の文書を見て、町長が先頭に立って強力に進めている事を知り、残念でならない。いかに町財政が苦しかろうとも、「命の水を金に替えよう」とは、後に必ず悔いを残すと思う。
青年らは竜ヶ窪の水で魚沼米を生産する。その余水でワサビ栽培、という夢もあると聞く。津南町相吉出身で、静岡県でワサビ栽培に成功し、全国に知られる鈴木丑三さんの指導で特産化しようという動きを聞く。神域を汚す事なく特産物を作り出すことこそ、神も許してくれる発想であると思う。
町の為政に携わる方々は、この計画にもっと賢明に取り組んでほしい。金さえ出せば何でも手に入る時代だが、竜ヶ窪の水は満金を積んでも手に入れる事のできない「宝物」であり、命の水だ。
竜ヶ窪が名水百選に選ばれて以来、このような事が起こりはしないかと憂いてきた老人の切なる願いである。