時々、ふと海が見たくなる。生まれ育った沖縄では、道路を走ると、すぐわきに海がある。「見たくなると、休日に日本海を見に行くんです」。沖縄の代表的な柑橘類「シークヮーサー」と長寿で知られる本島北部、大宜味村(おおぎみそん)で育った中村幸美さん(29、中村農園)。津南の雪道の運転にも、だいぶ慣れた。
春のアスパラ、田植え、夏の加工トマト栽培、秋の米収穫、そして今、餅加工で大忙し。自作のもち米で作る餅「田舎もち」。地域の物産店やネット販売で人気だ。
朝8時から夕方5時までフル操業。「今月末まで続きます。もうちょっとの頑張りですね」。この時期、2人の子たちは早朝保育で朝7時半過ぎ、家を出る。
結婚前の21歳の頃。初めて津南に来た。それも冬。「雪の壁の中を車で通り、どこを走っているのか分かりませんでした。こんなにたくさん雪は初めて。『すごーい』でした」。津南原高原は国道117号沿いより一段標高が高く、雪も多い。「凍った雪道のガリゴリさが、怖いですね。それに寒いですね」。ガリゴリ、この表現、まさに体験からの言葉だ。
2人とも美容師だった。東京の職場で知り合い、そのままゴールイン。夫・勝さん(33)と共に津南に帰り、もう3年ちょっと。「津南に帰って、農業を継ぐことは話していました」と勝さん。
海を見たくなるように、月に一度余り、無性に食べたくなるものがある。『沖縄そば』。「実家から送ってもらいます。スープ付の生めんです。ダンナも、子どもたちも好きになりました」。豚のスペアリブ(骨付き肉)を入れる「ソーキそば」も大好き。津南で沖縄の食文化を、時々、堪能している。
「農業は楽しく」がふたりのモットー。四角豆の種類で、沖縄で栽培する「うりずんまめ」の種を沖縄から取り寄せ、津南で植えた。「ちゃんと育ちました。炒めものやてんぷらが最高です」。サヤエンドウのようなシャキシャキ食感がたまらないという。
「津南でも育つ沖縄独特の野菜があります。そうした野菜を少しずつ作り、皆さんに提供したいですね」。新たな津南の食文化が、芽生えるかも。
津南暮らしと共に始めたカゴメ・トマトジュースとの契約栽培の加工トマト。今夏、このジュースボトルのパッケージ写真に2人が登場。「話題になりました。大手メーカーのトマトジュース原料が津南で作られていること、余り知られていなかったので、PRにもなりました」。沖縄の実家に1ケース送った。「ボトルを保存しているようです」。
2人の子たちを通じて、食の安全を気にかける。フクシマ事故で飛散した放射性物質。津南地域にも飛んできた。「お米は、自分たちで検査しました。不検出でしたので、安心して皆さんに提供できます」。農と向き合う姿勢を感じる。
初めて農業に取り組み3年余り。「実はトラクターなどに乗るのが好きなんです。今年は『田かき』をしましたよ」。沖縄の「おばー」手作りの、香りが強いサンニンの葉で包んだ沖縄もち『ウニムーチー』、揚げお菓子『サーターアンダギ』が時々届く。「津南の野菜は美味しいです。沖縄の食べ物も美味しいです。食べ物を通じて何か交流が出来れば面白ですね」。