新潟県内の4番目に開校した県立津南中等教育学校。多くが市部への開校で、町村部では県内唯一の中高一貫校だ。今春、6期生を迎え、ようやく中高一貫6学年の体制が整った。6年前に迎えた1期生が、来春、第1回卒業生として母校を巣立つ。その進路に、県内はじめ多くの教育関係者の目が集まっている。6年間を過ごす1期生は何を思い、初の卒業生を送り出す学校側は、どう取り組んでいるのか。唯一の町村部にある中高一貫校、津南中等教育学校の今をリポートする。
先月末、27日の土曜、夏休み恒例のオープンスクールを開いた。これも恒例の昼食カレーは、在校生の保護者が作った。「今年は美味くできました」。和やかな雰囲気で始まった同スクール。十日町地域や魚沼エリアなどから250人が参加した。
保護者130人余を前に、本田雄二校長は、にこやかに話した。「学力の養成、勉強する学校です。だが、勉強だけの学校ではありません」。陸上で全国高校、水泳で全国中学大会に出場の実績などを紹介。3年前の赴任時、生徒に話した。『学力だけでは社会は認めない。人間性を伴ってはじめて社会は認める』。これが本田校長の信条だ。
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津南中等の教育方針は『夢の実現』。そのために、「50%の生徒が国公立大学に進学できる学力をつける」を目標に、「分かるまで教える」という徹底した教育を行う。主要科目の英語、数学はクラスを二分し、少人数授業に加え、この2教科の教諭数は、他の教科の2倍の配置を受け、さらに習熟度別の授業も行う。学業にメリハリをつけるため英語検定、漢字検定を組み入れ、異学年合同の授業、学習合宿など「試行錯誤を重ねている」(本田校長)実践を行い、『夢の実現』をめざしている。
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来春、第1回卒業生となる1期生。この6年間、何を感じ、いま何を考えているのか。
肩より少し長い髪、重そうなバッグを下げる女子学生(18)。なぜ津南中等をめざしたのか。「率直に言って、オーストラリア研修に行ってみたかったんです」。その体験は、4学年で実現。「ますます外国への関心が増しました」。卒業まで半年、センター試験まで4ヵ月余り。
津南中等は、5学年に進級する時、理系、文系に分かれる。文系は女子が多く、理系は男子の率が高い。女子学生は文系。「哲学や史学が好きです。当たり前の事をいろいろな角度から考える、とても興味を感じます」。得意科目は英語。英検3級を取得し、今は受験勉強体制。この夏休み、学習合宿に参加し、来春へ向けスパートが始まっている。
1期生。「何かにつけて、君たちは1期生だから、と言われ続けています。そう意味ではプレッシャーはありますが、最後は自分は自分だと思います」。国公立をめざす女子学生。「自分の世界をもっと広げたい、そのための大学です。新しい世界に行くためです」。女子生徒の顔に、自信が広がった。
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スーツが似合いそうな大人の雰囲気を感じさせる男子学生(17)。理系コースだ。「学力の保証、の通り学外で勉強する機会が多くありました。オーストラリアホームスティもそうです。英語のリスニングが実感として良くなり、文化の違いも体験できたことは、これからの自分に大きく影響すると思います」。小さな頃から機械いじりが好きだった。
当初、『中等は勉強ばかりするところ』と言われた。実際に入学後、毎日出る自宅学習2時間分の課題は、大変だった。「でも、勉強するために入ったわけですから。半年くらいで慣れました。部活もでき、楽しい学校生活でした。あと半年ですが、僕は中等に入って良かったと、実感として思っています」。
それを感じる出来事は、夏休みにあった。津南中等以外の他の学生との学習会に参加した。「学力がついていると、自分で分かりました」。他校の学生との差を感じた。
だが、中高一貫6年間に、ちょっと違和感も抱いている。「中学過程の前期から高校課程の後期への進級ですが、何か区切りがないと、気持ちの切り替えがうまく行きませんでした。リセットできる機会があるといいと思います」。同じことは、女子学生も抱いた。「何らかの試験があった方が区切りがつけられるし、自覚もできるように思います」。高校受験がなく、しっかり目標に向かえるというのが、中高一貫校の最大の特徴だが、当事者からは、意外な声が聞こえている。
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年々、出身の小学校数が増えている(表参照)。「津南中等校への期待の現われである。これは地元の教育への刺激にもなるはず」。本田校長は、地域への教育効果を期待する。
広域化する通学エリア。全校の10%が南魚沼市、魚沼市から通学しており、保護者会で通学バスをチャーター、約1時間かけて通っている。在校生(434人=男子184、女子250)の内訳は、津南町と旧十日町市が36%、旧中里17%、栄村1%。すでに地元津南以外からが6割以上を占めている。
県内6校の中高一貫校。町村部は津南中等だけ。通学面で課題はあるが、本田校長は、意に介していない。「通学に1時間かけて通ってくる学生に応えたい。内容さえ伴っていれば、不便さは克服できる。私たちは、その期待に応えていきたい」。
来春、注目の第1回卒業生を送り出す。「旧帝大クラスに何人か入るでしょう。今の実力から、そう言えます。だが、学生たちは大学に入ることが目標ではなく、自分たちの夢の実現のための大学です」。
27日のオープンスクール。1学年の楽しそうな授業。廊下を通る授業参観者には目もくれず、集中する6学年の姿。来春への期待が、さらに高まる。
写真・オープンスクールには250人余が参加。年々、広域から入学している