地震、水害、豪雪。災害発生と共に、地元市町村は災害対策本部を設置し、住民の安否、被害状況の把握、ライフラインの復旧に当たる。
3月の県境地震で発生直後から救急対応した栄村の村営診療所長、佐々木公一(72)医師は、体験から語る。
「危機管理担当者を養成し、研修や講習を日頃から積み、災害発生時、その人材が対策本部を運営するシステムが必要だ。例えば栄村に1人、津南町に2人、十日町市に4人いれば、災害時など、その人たちがチームを組み動くことができる。今度の震災で一番強く感じていることだ」。
3月12日未明の激震。すぐに村営診療所に駆けつけ、その足で役場庁舎へ。近所の住民が集まり、負傷者の治療を、駆けつけた保健師と役場ロビーのテーブルを使い、救急対応した。「野戦病院のようだった。重症、重体の人がなかったのは幸いだった」。医療ボランティアも駆けつけた。だが、それも機能的に動くことができなかった。「個々の避難所回りも大切だが、来た医師がチームで医療テントを張り、診察や治療を積極的に行った方が効果的だったのでは。東北で救急医療で来日したイスラエル医師団のように、独自に医療活動した方が、緊急時は効果的だ。同時に、災害時の混乱状態でコーディネイトできる人材が必要だ」。
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人口2千2百人余の栄村や津南町、十日町市は全国的に見れば中山間地。その地を今回の激震が襲った。似たような山間地は全国にある。今回の県境地震での取り組みは、実は全国の山間地災害での救急医療モデルを作ることにも通じる。
災害発生で市町村が設置する災害対策本部。その本部長には、多くが市町村長が就く。「だが皆、素人も同然。ならば災害など危機管理のスペシャリストを置けばよい。その人材を県や市町村の枠を超えて養成できるためにも、生活圏での連携が求められる」。
この取り組み、政府でも検討事項としている。この県境の地で実現すれば、全国初の事例となり、それが全国の山間地における防災モデルとなるだろう。
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震災からまもなく6ヶ月。栄村で仮設暮らしが始まり2ヶ月が過ぎる。佐々木医師は、この仮設生活を問題視している。中越地震でも、仮設生活による孤独死や自殺者の問題となった。「これから冬を迎える。窓の雪囲いで部屋は暗くなる。屋根雪は一晩で相当積もる。隣りの物音がよく聞こえ、知り合い同士だが、かえってそれがストレスになるなど、仮設暮らしへの対策が急務だ。特にこれから向かえる冬対策が重要だ」。
仮設住宅には2年間暮らせる。「行政は、『2年間も暮らさなければならないのか』という見方をした方がいい」。我慢の限界を超えると、孤独感が強まり、無力感から自殺者への結びつく場合が多いという。
佐々木医師はこの夏、仮設暮らしの4人を熱中症で飯山日赤に救急搬送した。「エアコンを使うと電気代がかかるので、我慢していたという。独り暮らしの年寄りの気持ちを、行政はもっと考える必要がある」、さらに「この2年間、絶対に犠牲者を出してはならない。その取り組みを今すぐにでも始める必要がある」。
高齢者は「買い物弱者」でもある。横倉仮設住宅に、早ければ9月中に日用品や生鮮費を販売する仮設店舗が開設される。だが、独り暮らし世帯にとって生活費がコストアップにつながる。自宅なら、自家野菜など豊富な食材があるが、仮説暮らしは食料品の多くが購入となる。「年寄りの孤独化をどうサポートするか大きな課題。生活への安心感を与える行政からの言葉が必要だ」。
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深刻な人口減。統計、人口2200人余の栄村だが、村外移住者が増える懸念がある。
「いい村は安心して生まれ、安心して死ねる村だ」。佐々木医師は、北海道への医師赴任の経験から『定住の安心』における地域医療活動の必要を痛烈に感じている。
来年3月末、当初契約の3年間が満了する。「人口は少ないが、安心して子どもを生むことができて、安心して最期を迎えられる、そんな村なら、住みたい人が集まるかもしれない。そのためには何が必要か、これまで提案し、話してきた。それを、この村はどう受け止めているのか、私には聞こえてこない」。
今回の震災を経て、住民、行政、医療機関、この間での言葉の少なさが、気になっている。
シリーズ連載「震災復興を検証 明日を見る」は今回で終わります。住民、行政、支援団体、その「絆」に復興のカギがあるが、現場の声が、声として、しっかり届いているのか、疑問が残る。
写真・3月12日の地震後、役場庁舎に避難した村民。佐々木医師はこの奥で救急治療した(3月12日午前10時ごろ)