「なでしこジャパン」がPK戦を制し、女子ワールドカップで世界の頂点に立った18日、小林由貴(23)は歓喜の日本を後にし、ヨーロッパアルプスのイタリア、フランスの標高2千bの雪を求めて旅立った。帰国は来月10日。全日本クロスカントリースキー、ナショナルチームの夏合宿だ。
(敬称略)
30度を超える炎天下。津南町役場からニュー・グリーンピア津南への舗装道路。ひとり黙々と練習する小林の姿があった。全日本ナショナルチームメンバー。3年後のロシア・ソチ五輪をめざす。昨春から岐阜日野自動車スキークラブに所属。小林は津南中ー十日町高ー早稲田大とクロカンに取り組み、大学3年でオリンピック候補選手が入るナショナルチームに入る。
学生選手から、社会人選手。岐阜日野の先輩には、同じナショナルチームの先輩で、国内クロカンの第一人者、石田正子がいる。2012年、岐阜国体が開かれる。早大在学中から、岐阜日野から誘いを受け、契約社員に。「どこで練習しても良いと理解をしめしていただき、私は津南をベースに練習します」。以来、生まれた津南を拠点に、トレーニングに励む。
劇的な優勝シーンが忘れられない。津南中3年の駅伝新潟県大会。アンカー勝負となり、小林は先行する分水中にラスト100bで追いつき、そのまま抜き去り、優勝テープを切る。全国中学駅伝のキップをもぎ取った。
十日町高3年の冬。秋田・鹿角市でのインター八イ、全国高校スキー大会。女子リレー。先行する飯山南を、これもラスト100bで捕らえ、そのまま抜き去り、歓喜の初優勝ゴール。
中学時代は貧血に苦しめられた。「環境の変化に弱い自分がありました」。駅伝、クロカン指導の恩師、山内京子コーチ(現・羽鳥)と共にチームが掲げた『静心』を思い出す。「今も京子先生とは連絡を取り合っています。静心の言葉の深みを、噛み締めています」。
全日本ナショナルチームの女子指定メンバーは3人。A指定の石田正子、C指定の小林、柏原理子の3選手。国内クロスカントリースキー女子では、ナンバー2の位置。オリンピックは国内予選を経て決まるが、五輪出場はナショナルチームメンバーが第一条件。ソチ五輪出場が視野に、濃厚に入っている。
小林が自信をつけた大会が昨年12月、フランスでのワールドカップ第3戦。得意の15`フリースタイルで28位。30位以内で与えられる国際スキー連盟FISポイントを初めて取得。「あの大会が、大きな契機になり、大きな自信になりました」。今年1月のアジア大会では、チームスプリント3位、10`個人フリー3位、リレー2位と活躍。3月のノルウェーでの世界選手権では、30`個人フリーで27位と日本人最高位を獲得している。
通称「ユキんこクラブ」、「小林由貴選手を応援する会」が昨年11月、津南町に誕生した。ナショナルチームメンバーには、連盟から支援金が出るが、遠征費、練習費用、用具費用など、とても足りない。同クラブは「小林をオリンピックに出し、津南の子たちの目標に、夢実現につなげたい」と熱い。
事務局の志賀直哉は、クロカン選手の経験から、競技継続の大変さを身を持って知る。「由貴のひたむきさ、練習ぶり、我々も勇気が出てくる。今の状態ならオリンピック選手はまちがいない」。同クラブは現在会員80人余。目標は百人以上。支援を呼びかける。
今月15日。津南特有の起伏に富む河岸段丘のニュー・グリーンピア津南道路。照り返しの舗装道路を黙々とローラースキーで走る。全日本ナショナルチームの小堺啓史コーチが、ビデオ収録やフォームチェックなどアドバイスした。「津南をベースに練習するので、ひとりが多いですが、自分に妥協せずに、目標をめざしたい」。いつもの由貴スマイルで話す。9月からはオーストリア合宿。
「なでしこの澤さんは、14歳から世界に挑戦し、32歳で世界の頂点に。あきらめない、妥協しない姿は、大きな励みになります」。
写真・黙々と練習に励む小林由貴(15日、NGP津南で)