「見える被害」、「見えない被害」。水田や畑に入った地割れ(クラック)。耕作が本格化し、被害の深刻さが増している。「水を入れたが、溜まらない」、「畦が落ちた」、「田が水平にならない」。津南町や栄村の農家から声が上がっている。
25日。栄村森区の山にある整備された田。30年以上、村委託で重機を使った田直しを行う高橋健さん(54)は、石灰を水で溶いた白い液を幅1aほどのクラックに流し込んだ。「入るなー。相当深いぞ」。小型重機で掘る。割れ目が白く浮き出た。田の表土から約80aの深さまで達した。
村内の田を熟知する高橋さん。「普通の災害と地震被災が違う。表面を修復しただけでは、地中の地割れはそのまま残る。水を入れても、すぐに漏れるだろう」、さらに「恐いのは2次災害。その田だけではなく、人家や水路への被害につながりかねない。中越地震では、そうした災害も発生したと聞く。しっかり修復する必要がある」。
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栄村産業の基幹、水田農業の被害対策に、村が乗り出した。村内8集落(森、青倉、横倉、雪坪、小滝、志久見、野田沢、原向)の水田16ヵ所、菅沢の畑2ヵ所、1a〜5aほどの地割れ掘削調査を、25日から3日間行った。18ヵ所すべてを克明に写真記録し、7、8月に来村する国(関東農政局)の災害査定官に提示し、災害復旧範囲の拡大を求める。
国の農地災害復旧には基準がある。地割れ深さ41a以上、直線150b以内で事業費40万円以上と定められている。
今月17日、関東農政局の災害査定官が来村した。本査定前の状況視察だ。農地災害を担当する村産業建設課の災害第2係の森川浩市係長は、村の窮状を訴えた。
「限られた村の財源。いかに村負担、村民負担を少なく、農地を復旧するか、これが最大の課題です」。
その参考となり、自信となったのは、長年、栄村など中山間地の棚田などを調査し、効率化の対極にある山間地の水田営農を研究する信州大の木村和弘教授のアドバイス。さらに7年前の中越地震で被災し、復興を果たした小千谷市の被災者の言葉だ。
木村教授は「地震災害には、見える災害と見えない災害がある。地割れをあまく見てはいけない」と警告した。その言葉を受け、今月18日、村内小滝で田のクラックを掘削調査した。50a以上の深さに達していた。
中越地震で同じように水田など農地被害を受けた小千谷市真人の細金剛さん。「見えるクラック以上に、地中の地割れは深刻。中越では表面を埋めただけで作付けしたため、その後、水漏れや翌年は水がたまらず、再工事をした所が多くある。さらに地割れが広がり2次災害も発生した。今回、栄村でも同様の被害が出ていると聞き、何か協力できればと思っています」。
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「村民の負担、村の負担をいかに少なくするか」。森川係長は関係者協議の中で、一つの方針を決めた。『クラックは深さ21a以上を国の災害復旧対象に』。17日来村した災害査定官にも打診した。「中越地震では深さ31a以上が国の対象になった。栄村は全村の田の8割が被害を受け、この農地被害をしっかり直さないと、今後の米作りに問題が出かねない」。
クラックや沈下の田は、内畦で作付けできるようにした。村は、この内畦の範囲内すべてを災害復旧対象にするよう国に要請する。
この復旧面積の拡大は県も見込み、13日までの栄村の農地関係被害調査で約920ヵ所、19億3千万円を見込んでいる。災害復旧の農家負担は10%。だが「限りなくゼロになるように働きかけている」。国事業に該当しない復旧は、村小規模事業で対応(農家負担20%)。これも「限りなくゼロにしたい」と、村は農地復旧に本腰を入れている。
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ジャズをこよなく愛する高橋健さん。重機を扱いは、スイングの世界。全村の田、それを耕作する人、すべてを知る。「高齢化が現実だが、今回の復旧はいかに個人負担を少なくするか、これにかかっている。この災害で、農業離れを加速させてはならない。こうした山間地での農地被害をしっかり助ける助成制度が必要だ」。日焼けしたひげの顔に、力がこもった。
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シリーズ連載 「3.12長野新潟県境地震 復興の足がかり」の1部は今回で終了します。震災の地が、どう変わっていくのか、夏に予定の2部で報告します。
写真・石灰水を流し、クラックの深さを測る高橋健さん(25日、栄村森で)