通りかかった津南町役場前で、この日告示の県議選候補が街頭演説していた。立ち止まり、聞いた。「うーん」。そうかな、と感じた。
アメリカ大統領選の民主党代表選の真っただ中、2008年春、州立オレゴン大で政治学を学んでいた。
ふたりの演説を聞いた。オバマ氏は大学の体育館で、ヒラリー氏は地元の公民館で。熱気あふれる演説は、今も桑原悠(24)の耳に残っている。「学生たちは、それぞれの候補者の政策を比較する議論を教室で行うなど、日本の大学では見られない光景でした」。
東京大学大学院2年の講義が5日から始まっている。
(敬称略)
「私は、理性で動くより、直感です。行くべきだ、と直感でした」。社会科学専攻の早稲田大3年の時、交換留学の選抜に挑戦し、1年間のアメリカ留学を実現。日本から20人余り留学したが、政治学を選考したのは悠と数人だけ。アメリカの学生3人と一緒にルームシェアでアパート暮らし。
「単位をしっかり取るために、一日12、13時間、勉強したでしょうか」。大統領代表選のオバマ氏とヒラリー氏の演説は、そんな時に聞いた。「あなたは誰に投票するの、とストレートに聞いてきます。生活の中にしっかり政治が入っていると感じました」。
もっと政治学を。帰国後の昨年4月、東京大学大学院へ。専攻は『公共政策学』。「政治から経済、医療、福祉など広い分野です。私は政治学です。政治は他の人のことを思いやること、これだと思います」。
小さい頃、祖父や両親が日常の話題の中で、当たり前のように社会のこと、世界の出来事などを話していた。
「そんな小さい頃からの影響かどうか分かりませんが、自分は世話好きだと思います」。津南小時代に児童会に入り、津南中学では生徒会副会長。「なにか、人のためにと思っていたのかな」。
多感な高校時代。国際情報高で3年間の寮生活。「親から離れたことで、直感で動くことが、さらに進化したようです」。
春休み。家に帰り、家族で話題になったのが原発問題。「原発をなくし、自然エネルギーだけでは全く足りません。でも原発を必要としないエネルギー政策が必要です。この点では家族の意見は一致しましたが、TPP問題は、意見が分かれました」。アメリカで感じた日本の産業構造などから、国情の違いを感じている。
州立オレゴン大留学が、政治学への関心を増幅させた。東京大大学院での公共政策学。「あと1年です。医療や福祉の分野を勉強します。特に予防医学。津南病院の石川院長が取り組まれている分野です。『かかりつけ医』、ホームドクターのことなど関心があります」。
津南へ帰るつもりだ。「津南のために役立ちたいです。私の家は農家です。農業ビジネスの分野も考えたいです。いまは机上の論理ですが、社会経験を積みながら、実践したいです」。
今、ある「直感」がある。津南町など、この地域に役立つ「直感」を抱いている。
「シリーズ連載 明日へ」は恩田昌美が担当しました。