「信濃川中流域の減水区間では、西大滝ダムおよび宮中取水ダム地点での発電取水により減水が生じ…」で始まる提言書。1997年の河川法改正を受け、国土交通省が主導し99年にできた「信濃川中流域水環境改善検討協議会」(以下中流域協)。10年間の調査や協議を経て2009年3月、冒頭の言葉で始まる提言を出した。 (敬称略)
東京電力は西大滝ダム水利権更新において、この提言を尊重し先月7日、「社内準備が整った」と更新許可申請した。中流域協は提言で「西大滝ダム下流毎秒20d以上の河川流量を確保すべき」としている。ただ、提言の前書きには取り組み姿勢を求めている。「本提言における学術的な検討を踏まえつつ、多くの関係者による検討・取り組み等、河川環境と水利用の調和に向けた努力が今後も継続される必要がある」とある。
今回の更新許可、この「多くの関係者による検討・取り組み」がされているのか、特に流域住民との検討・協議はどうか。これまでの東京電力の取り組み姿勢を見る限り、大きな疑問府がつく。河川法にある「河川環境の整備と保全」をどう考えるか、流域住民の意識も問われている。
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先月20日、西大滝ダム直下流域の栄村住民を主体としたグループと東京電力信濃川発電所幹部との懇談会が、津南町大割野の同社信濃川総合制御所であった。今回の水利権更新関係では初の住民懇談となった。
同制御所の黒河内淳所長は、今回の水利権更新に対する東京電力の基本姿勢を示した。
住民=30年前と今回の間に重大な変化があった。1997年の河川
法改正。治水、利水に「河川環境の整備と保全」が加わった。
黒河内所長=改正は意識している。期間更新であって、新たな事柄
が付加されたとは認識していない。環境という側面は当然意識
している。新たに維持流量というものを盛り込ませた。
住民=中流域協提言は「河川環境の改善を多くの関係者の参画で行
うべき」とある。水利権更新の時しか住民との協議の機会はな
い。もっと積極的に情報公開し、流域地域と話し合うべきだ。
黒河内所長=行政は地域を代表する組織。その行政の長に説明し
た。(流域と)協議しなければならないというものはない。
確かに30年前の更新期では、維持流量という規定はなく、今回申請と同じ最大取水171・133dだけの申請許可だった。
だが、河川法の改正は劇的に河川環境のあり方を問うている。これを受けるように東京電力は企業行動憲章(2005年4月6日制定)を掲げた。その中に「環境問題への積極的な取り組み」と「地域社会の発展への貢献」がある。さらに「広く社会とのコミュニケーションを」も明言している。企業理念を自ら問われる状況になっている。
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6年前、生まれ故郷の津南に帰り、あらためて津南地域の自然の素晴らしさに感じ入っている岡村昌幸(50)。JR東・宮中ダムの不正取水で、川への問題意識がさらに強くなった。
宮中の上流約25`にある東京電力西大滝ダム。その直下流域の慢性的な渇水状態が気になっていた。「津南を外から見ていたが、ここで暮すようになり、この自然資源の大切を痛感している。この資源を守らなければ、と思う」。西大滝ダムから県境を越え、川を活用する事業化の「千曲川信濃川親水協議会」のメンバーに入り、事務局を努める。ラフティング活動もその一つ。「全国的に注目を集める場所になっている」。大きな誘客要素に育てたい。
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東京電力と栄村住民の懇談に参加した京都生まれの松尾眞(60)。NPO栄村ネットワークのメンバー。大学准教授の顔を持つ。
今回の西大滝ダム水利権更新は河川法にある『河川環境との整合性を確認する必要があるもの』(平成14年11月27日付、国土交通省水政課長、河川環境課長通達)に該当するという。
この通達では、「河川環境の改善に向けた取組みが合意された場合」は、「合意内容に設定された効果の検証期間」。一方、「合意したものの、放流量が決まらない場合」は『合意形成を図るための調整期間(1年〜5年)』とされている。
つまり、合意された場合は効果の検証期間となり、中流域協がいう継続的なモニタリングによる検証となる。流量が未定の場合は調整期間内となる。だが、東京電力は「20年間」を申請している。松尾は指摘する。「法的な瑕疵(かし)を含め、多くの問題がある」。
今回の更新許可に対し、流域から疑問視する声がすでに監督官庁に届いている。東京電力の申請が、すんなり通る状況ではない。国が西大滝ダムの更新許可をどう扱うか、流域住民は大きな関心を持ち、見ている。
写真=東京電力信濃川発電所(右)、上流約21`の西大滝ダムから導水管で送水される。