今年末に水利権更新をむかえる東京電力西大滝ダム(飯山市)。下流約20`の導水管で津南町鹿渡新田の同社・信濃川発電所で発電利用している。1918年(大正7年)の水利権(毎秒179d)取得以来、発電取水を続ける同ダムの水利権更新に向け、ダム魚道改善と共に更新をめざす東電。更新手続きは更新6ヵ月前から1ヵ月前までに国申請する。今回は継続更新のため地元同意を必要としない。このため疑義が出ない場合、東電の申請通り国は更新許可する。同ダム直下流の栄村、津南町からは、これまでに公式的な疑義は出ていない。一方で住民からは「夏場の渇水期など、大河信濃川の姿は全くなく、小川の状態。川に親しむ環境になく、河川環境がますます悪化している」など、更新期を契機に放流量の増量を求める声は強い。
先月23日、地域の元気づくりに取り組むNPO法人栄村ネットワークが主体で、同村で初の千曲川(信濃川)ラフティングを行った。飯山市の活動グループの協力で同村箕作・百合居橋から津南町境の志久見川合流付近まで役3時間かけ下った。12人が参加、水量不足の川の実態を見た。来月17日、2回目を行い、水量の違い調べる方針だ。
西大滝ダムは1939年(昭和14年)発電開始。最大取水量毎秒171d、ダム直下流の維持流量毎秒0・26d。だが1997年の河川法改正で「河川環境の維持」が重要視され、2001年の「信濃川中流域水環境改善検討協議会」立ち上げで、同ダムでも河川維持放流を開始。現在は冬場の毎秒0・26dからサケ遡上期の19・71dまで、年間7段階の変動放流で臨んでいる。
□◆□
その変動数は12月1日から3月31日毎秒0・26d、4月1日から5月31日同5・66d、6月1日から7月9日同12・16d、7月10日から9月10日同7・81d、9月11日から9月30日同12・16d、10月1日から11月10日同19・71dとなっている。
今年末の水利権更新は、発電開始から3度目となり、河川法改正で発電開始後100年経過すると、以降の水利権は10年間となり、今回の更新は10年間となる見込みだ。
□◆□
河川法改正後、2001年に国土交通省北陸地方整備局・信濃川工事事務所(長岡市)や流域市町村などで立ち上げた「信濃川中流域水環境改善検討協議会」。流域の魚類や流況、水温などモニタリング調査を行い、2009年3月の第19回協議会で、10年間の調査結果と望ましい河川維持流量などを報告した。
この中で注目される数字が出た。JR東・宮中ダム直下流「毎秒40d以上」、西大滝ダム直下流「毎秒20d以上」の最低レベルの河川維持流量が示された。同時期、不正発覚で水利権取消しを受けたJR宮中ダムは、その後の協議で40d以上が協議ベースとなり、地元十日町市が主導する形で5年間の試験放流(40dから120dまでの変動性)を取り付けた。
今度の東京電力の水利権更新では、最大取水量やダム直下の維持流量について地元関係者と協議する場は今のところない。西大滝ダム関係では、JR宮中ダムと同様、魚道改善の「西大滝ダム魚道構造検討会」を作り、地元高水漁協などメンバーにこれまで2回の検討会を開いている。
□◆□
この水利権更新問題は、7日開会の津南町、栄村の両議会で議員が取り上げた。津南の中山弘氏は、地元の関心度の低さを指摘し、地元行政のアクションを迫った。「水が流れていない信濃川が日本一の信濃川なのか。故郷を思う人たちに何と言ったらいいのか。早く皆が手を上げて津南、栄村で頑張っている姿を見せるべきだ。次の世代に何を引き渡すのか。それが今の我々の責任じゃないか」。町は「これまで町内から声は出なかった。運動の広まりがあれば、その運動の必要もあるだろう」(石沢建設課長)と町の姿勢を示している。
一方、栄村の樋口武夫氏は先月のラフテイング体験を通じ、水量不足の実態を訴え、地元の取り組みの必要を強調。「JR宮中ダムは40dから120dの変動流量で5年間試験するが、西大滝ダムはこのままでは渇水状態は変わらない。40dは必要だ。東京電力に取り組みを求めるべきではないか」。島田村長は「毎秒40dは難しいだろう。ただ現状では魚類の生息環境は十分ではない」と河川環境の改善を指摘している。
□◆□
JR宮中ダムの先例がある。不正取水の発覚が発端だが、『水無し川』への問題視はそれ以前からあった。今年末に水利権更新を迎える東京電力西大滝ダム。河川環境の改善の必要は、現流量を見れば衆目の一致するところ。一方で電力需要対策。だが、その内実の説明や論議の場は、ダム直下流域では全くないのが実情。水利権行使の電力会社、河川環境の改善を求める流域住民。その話し合いの場が、先ず求められる。