「農家による農家のための地酒作りで新たな産業化を」―。13年前、酒米生産者と津南町、JA津南町が共同出資し、休業中の酒造会社の酒造権を取得し、津南町に国補助で酒造工場を建設、新たな現地法人を設立し「こだわりの酒づくり」をスタートした津南町の津南醸造株式会社(資本金2億7560万円、旧小松原醸造)。経営難と資金返済の問題が浮上している。特に当初、経営パートナーだった津南町とJA津南町の間で、経営資金と責任の所在に対する認識の差に大きな開きがあり、JA津南町の同社への貸付金のめぐり、さらに溝が深まっている。
まず経過をたどる。増資による同社設立の平成8年4月時は資本金2億2百万円。津南町5千万円(出資比率24・8%)、JA津南町5千3百万円(同26・2%)、酒米生産者など一般出資者264人(9900万円)と官主導でスタートした実質的な第3セクター会社。町出資で国補助が決まり、農業者も賛同。町内反里口地区に建設した新工場は約10億円(国補助半分)で建設。酒造の当初計画は年間2千石を見込んだが、初年度7百石、次年度から仕込量が減少。経営状態の悪化が始まった。
運転資金の行き詰まりからJA津南町が1億5千万円を融資。毎年、書換えで処理したが、平成13年8月、6人が連帯保証人となり、5年据置き、10年返済の融資を決めた。連帯保証人は当時の取締役の農協役員や団体代表、民間社長など一般株主6人(死去で現在7人)。この借入金が返済不可能となり、貸付側の農協は連帯保証人に返済を迫った。保証人は今年4月、調停に持ち込み、今月17日の第8回調停で合意する方向で進んでいるという。
このJAの貸付金は1度返済され残金は1億3480万円。調停ではこの50%、つまり半分6740万円を保証人が返済する方向で調停が進んでいる。残る半分はJA津南町が内部処理する見込みだが、具体化していない。
この連帯保証人の返済は法的には有効だが、保証人からは疑問と不信の声が上がっている。「この会社のスタート時を考えると、町の関与と責任は明確。当時の農協トップの要請で出資を促した事実はあるが、町の出資が国の補助につながった以上、町の経営関与は明確。だが、その貸付金の責任を一般株主に押し付けている。あまりにも無責任だ。この会社の重要性は良く分かっているが、これが町が共に進めた事業なのか、怒りを覚える」と、構想から操業に関わり、現在もその職にある町トップ陣への不信を募らせている。さらに保証人のひとりは「当時の農協トップの『お前たちには迷惑をかけない。名前を貸してくれ』の言葉は忘れない」と話す。
この問題は、これまでも町議会で取り上げたが、当時の事業構想から補助申請、さらに農協との協議、国や県との協議に関わった瀧澤秀雄副町長(当時助役)は「農協という金融機関と保証人という個人の間での問題であり、町がそこに関与すべきではない。町は要請に基づき出資しただけ」という姿勢を見せている。
一方、小林町長は今年3月議会で「私の任期中に、この問題は方向性をつける」と明言している。その方向性について、いまだ具体的言葉は聞かれない。
今月17日の調停が合意すると、連帯保証人7人が負担を求められる単純平均は約960万円。関係者は「町や農協が関わる公的な性格を持ってスタートした会社の負債処理を、一住民がこういう形で負担させられるのは、どう考えてもおかしい。ここを町のトップがどう考えているのか聞きたい」と、町の「道義的責任」の説明を求めている。
なお津南醸造の第56期(津南での決算14期)株主総会はあす12日、JA津南町ホールで開く。