違法取水問題で動向に関心が集まるJR東日本の清野智社長は25日、十日町市を訪れ、同市税収(約62億円)の半分に当たる30億円を「過去の謝罪」として寄付することを表明した。
同日、市議場で開いた「市民に対する謝罪及び説明の会」には市議や市民30人、JR東問題に取り組む市民協議会など同席の中、清野社長は「一連の不祥事に対する市民の皆さんの声に真摯に対応してこなかったことに対してお詫びいたします」と、2月に次ぐ来市で改めて謝罪し、過去の不正取水などの「お詫び料」として30億円拠出を表明、同席の小縣方樹副社長らと深々と頭を下げた。これに対し関口市長は「30億円はJR東の誠意の形であり、あくまでも過去の償いを形で示したもの。これからの水利権再申請とは関係ない。これからが本格交渉になり、条件闘争となるだろう」と話し、30億円が今後の水利権再申請交渉に影響しないことを明言した。
謝罪と説明の会の会場となった市議場。地元紙やテレビ全社はじめ共同通信、時事通信など配信社などほぼ全社がつめかけ、関心の高さを示し、傍聴席は30席満席などJR東・清野社長の言葉を注視した。
不正取水はじめ信濃川の河川環境への対応について清野社長は、「不充分であり、一連の不正取水などにより信頼感を決定的に失ってしまったということを、身にしみて感じた」と述べ、「JR東日本は変わったんだと認められるよう行動で示したい」と謝罪した。
関口市長が5月就任当初から示す「過去の清算と謝罪」に対して、「河川環境への取り組みが不充分だったと深く反省し『信濃川の河川環境の維持向上、環境との調和を図る』ことを目的に」と、十日町市が設ける基金に30億円拠出を明言。流域の小千谷市に20億円、川口町に7億円を、同様に拠出する。
さらに取水停止中、かんがい用水供給により信濃川発電所(小千谷市)で発電した相当分も十日町市に還元する方針だ。この拠出金は寄付金扱いで、地方交付税算定には影響しない。
注目の水利権再申請については、「信濃川中流域改善協議会の提言を踏まえ、北陸地方整備局が示した期限内(来年3月9日)に、発電再開への申請手続きを進めたい」と話し、期限内での再申請の姿勢を見せ、同中流域協議会が示した「維持流量40d以上」が念頭にあるも思われる。
一方、関口市長は、清野社長の二度目の来市、その説明について「踏み込んで市民にメッセージを発してくれた。違法ではないが合法的に信濃川河川環境を破壊し続けてきたJR東の行為に対し、それが申し訳なかったと明確に表明したことは、これまでと違うと感じた」とJR東の変化を指摘し、謝罪を受け入れた。
30億円の寄付金については「過去の謝罪を形にするという面では、当然そういうこともあり得ると思う。数字はともかく、この基金は過去の賠償、補償という性格の物ではない。河川環境に対するJRの対応が不充分だということを反省してのもの」と判断。同市長はさらに、過去の清算と謝罪は「今日で終了した」という認識を述べた。
この30億円をめぐり市民に賛否が起っている。水利権取得で同意が義務づけられている河川利用者の漁協関係者は「ここで30億をもらっては、これからの水利権交渉に影響しないわけがない。外から見れば、30億で水利権を売ったと受け取られかねない。金銭交渉はもっと先であるべきだ」と見ている。25日、清野社長の謝罪を間近で聞いた市議のひとりは「30億という数字がいきなり出てきて驚いた。金で解決というJR側の姿勢が早くも見えてきた。来年3月の期限内での水利権再取得をめざす姿勢が、ありありと感じられる。30億はありがたいが受け取るのは尚早ではないか」などの声も聞かれる。
こうした声を見越して関口市長は、30億円受領は今後の水利権交渉へ影響なしと明言した。「(30億円は)過去のことに対すること、これで過去の清算は終わり。ようやく水利権をまともに協議するパートナーになっていただいたということ。この基金拠出が水利権取得ありきではない。これから条件闘争となるだろうが、どんな結果になるか分からないが、(JRは)それでも結構という意味での拠出であり、純粋な気持ちのものであると理解している。これから新しいステップに上って交渉が始まる」と30億円の性格付けをしている。12月市議会で基金創設の議案を提出する意向だ。
JR東にとって信濃川の水利権取得はゼロからの取り組みとなる。法的に同意が求められているのは「河川利用者」。今回の場合、漁業権を持つ「中魚沼漁業協同組合(長谷川克一組合長)」、独自に農業かんがい用水の取水権を持つ「十日町土地改良区(須藤誠也理事長)」、さらに中里土地改良区、川西土地改良区などの農業かんがい用水や市流雪溝用水の取水利用権を持つ「十日町市(関口市長)」の3者。最終的には県知事の意見聴取により、問題なき場合、水利権は国から交付される。
その河川利用者のひとり中魚漁協の長谷川組合長は「我々は水利権交渉を市に一任しているわけではない。10団体の市民協議会が一本化して窓口になっているわけでもない。水利権取得には河川利用者の同意が絶対条件。今回の清野社長の謝罪、説明には、その河川利用者への言葉がまったくなかった。これからが本番であり、市長に全権を委任しているわけではなく、JR東の今後の態度を注視したい」と厳しい態度を示している。