
都市とのさらなる格差が叫ばれるなか、地方は深刻な過疎化と高齢化問題を抱えている。『米どころ庄内』として全国に知られる農業県・山形の鶴岡市も数年前までは、同様に後継者問題に悩まされていた。しかし、現在は「食の都 庄内」として農業、畜産を中心に自立と活性の道を歩みはじめている。
そこにはひとりの男がいた。庄内イタリアンを掲げるイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフである奥田政行(38)。地元出身の奥田は、東京で修行後、鶴岡に戻り、市内レストランで料理長を務め、2000年に自らの店をオープン。食のプロから認められる奥田の店には、その味を楽しむべく全国から人々が訪れ、一年を通して予約を取るのが難しい状況が続いている。その噂は国内にとどまらず、本場イタリアをはじめ、外国からの客も後を絶たない。
奥田が供する庄内産の素材をふんだんに使った料理は、シンプルかつ計算され尽くした素材そのものを活かす香りと味わい。季節感に溢れる。野菜は、長い間、農薬を使用していない畑を持つ、これぞという生産者と契約を結び、他は地元の生産者が持ち込む産直の店で、自らの舌で確かめ調達。自家用に作っている伝統野菜をブツブツ交換で分けてもらうこともしばしばだ。
山の恵み、山菜やきのこも欠かせない食材だ。肉は山形牛や庄内牛、三元豚や庄内豚、羽黒羊など庄内を代表する銘柄をはじめ、鳩や兎、熊などを独自ルートで入手。魚介類は庄内の漁港にあがる近海ものや川魚を使用する。
奥田が注目を浴びれば浴びるほど、アル・ケッチァーノで使われる食材と生産者たちも、注目を集める。 「人から必要とされている、喜ばれているということが実感できた時に人は変わる。生産者たちの意識が高くなり、都会に出ていた子供たちが後を継ぐために帰ってきたのはなにより」という奥田。毎日書き替える黒板のメニューに生産者の名前を入れ、どこでどう育てられたかを客に説明する。現在は、食事とセットで実際に生産者農家を訪ねるツアーも企画している
「地元に暮らす人たちには当たり前のものも、とても優れた素材であり、都会から訪れる人にとっては新鮮な驚きとなります。お客さんは、その驚きを求めてやってくるんですから」と語る奥田は、地の物はその気候や風土の中でこそ、真価を発揮できることをよく知っている。
2年前から全国の地方が元気になるように、と始めたキャラバンでは、自らが地方で見つけた良質の素材を使って料理を作り、庄内の活性化への道のりを例に講演する。単に観光だけに頼らず、今後の在り方を模索する自治体や個人企業から依頼を受け、すでに沖縄、大分、熊本、高知を訪れている。
地球の温暖化で、年々気候が読めなくなっている今、季節に頼る観光収入だけでは心もとない。庄内にみるこの地域活性は、料理を通
して食材・人・風土にスポットを当てた新しい地域ブランディングの形。日本の原点に回帰することが、メガトレンドとなる21世紀。
この成功事例に学ぶものは少なくない。
(写真/吉田勝美、取材・文/鈴木里香)