「他にないものが、栄村にはあるんです」。いまだ1b余の残雪の栄村に、新年度4月から新たな住人が加わった。それも20代の女性3人。学生時代に再三、同村を訪れ、「ぜひ暮らしたい」と村に「直訴」した北海道から女性。全国組織のNPO「緑のふるさと協力隊」に応募し、同村での農林業、生活体験を求め、東京と兵庫から来た2人の女性。村が用意した空家住まいで、自炊生活を始めている。「なぜ、栄村を求めて来たのか。村民の大いなる刺激になるはず」と高橋彦芳村長は、いつものように、さらりと受け入れている。。
九州・福岡の筑紫野市生まれの松本藍さん(22)は、先月、北海道の酪農学園大・環境システム学部を卒業したばかり。父の転勤の関係で九州から北海道へ。大学3年の時、地方自治研究室のゼミで初めて栄村を訪れる。「自治より私は栄村の自然と食に惹かれました」。
4年の時。「栄村で暮らしたい」と思いが強まり、夏休み後、ゼミ研修で面識ができた栄村振興公社の関谷常務に、履歴書と思いを込めた手紙を送った。約1ヶ月後、「歓迎します」の返事。「嬉しかったですね。思いが叶いました」。先月末、引越し荷物を積んだ車を父が運転し、フェリーで新潟へ。今月1日から、村振興公社経営の森宮野原駅交流館で働いている。
「学生時代に抱いた思いを、さらに強く感じています。人の暮らしと自然がぴったり合っている感じは、暮らし始めて、なお強く感じています」。森駅交流館は、人の往来の場。「ここを訪れる人に、栄村のことを話せる人間になりたいです」。横倉の住宅からは、飯山線を使って通勤している。
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今月18日、残雪に囲まれた栄村月岡地区。春の陽光を浴び、東京・世田谷からの白石愛子さん(27)、兵庫・神戸市からの寺田智子さん(22)は、真新しい長靴に真っ白な軍手、麦わら帽子姿で、地元の人たちの指導を受け、育苗作業をした。
全国の農山村での体験や活動の場を提供している「NPO法人地球緑化センター」から派遣の2人は「緑のふるさと協力隊員」。同NPOは登録制で、人材を求める自治体に、農山村での体験や活動を望む若い人を派遣する活動を11年前から取り組んでいる。
3年前、愛知・渥美半島で初めて農業体験した白石さん。「自分の生きる力のなさを実感しました。農の生活、自然と共に暮らすことで、必ず得るものがあるはずです」。聖心女子大卒後、東京都内の児童館講師などを務める。だが、農や自然への思いが強まり、同NPOに登録。希望地は栄村。「子どもたちに、自然との暮らしのすばらしさを伝えたい」。栄村の第一印象は、「こんな素敵な所があるんだと、感じました。毎日の温泉で、地元の人たちとの話しが楽しいです」。新たなライフスタイルを求めている。
今春、京都女子大を卒業したばかりの寺田さん。小学6年の時、阪神大震災に遭った。教員資格を持つ。「子どもたちと関る仕事をめざしますが、ここ栄村での体験を活かしていきたいです」という。大学4年の時、同NPOに登録し、栄村を希望。今月11日から栄村生活をスタート。「人と自然との関わりを、身近に感じています」と寺田さん。村が用意した中条の空家で、2人の共同生活が始まっている。
住居費は村が負担。生活費はNPO支給の月額5万円。「近所の皆さんから野菜やお米などをいただいています」。村が用意の中古軽自動車には、新米・栄村人と同様、若葉マークがついている。2人はこれから1年間、菅沢地区など村内各所で農業活動やイベント協力などを行う。